生前贈与 【相続時精算課税制度・不動産売却】
相続時精算課税制度が「令和5年度税制改正大綱」により、令和6年以降の贈与においては、特別控除(累計2,500万円)に基礎控除(年110万円)が追加されました。
相続時精算課税制度は贈与税を大幅に軽減し、生前贈与をし易くする制度ですが、利用する際には、注意点、メリット・デメリットを理解し、相続財産および贈与財産の額などを検討することが必要になります。
1.相続時精算課税制度の概要
原則として60歳以上の父母または祖父母などから、18歳(2022年3月末以前の贈与は20歳)以上の子または孫などに対し、財産を贈与した場合に選択できる贈与税の制度です。
相続時精算課税制度を選択すれば、複数年にわたり最大2,500万円まで特別控除を適用することが出来ます。ただし、2,500万円を超過した贈与については、その超えた部分に一律に20%の贈与税率が課税されます。
また、贈与した者の相続の際には、相続時精算課税制度を選択して特別控除を適用した最大2,500万円までの贈与財産は、相続発生時(死亡時)の相続財産に持ち戻して、相続税額の計算を行います。 2024年1月1日以降の贈与において相続時精算課税制度を選択した場合には、2,500万円の特別控除とは別枠で110万円の基礎控除の適用を受けることが出来るようになりました。
2.贈与税額の計算
(1)2023年12月31日までに制度を選択した場合
(※①年間贈与額-※②特別控除額)×20%=贈与税額 ※① 制度を選択した対象贈与者からの年間贈与額 ※② 最大2,500万円(次年度以降は残額)
(2)2024年1月1日以降に制度を選択した場合
(年間贈与額-※③基礎控除額-特別控除額)×20%=贈与税額 ※③ 年間最大110万円
(例) 68歳の父が34歳の息子に、相続時精算課税制度を選択して相続税評価額3,000万円の不動産の贈与をした場合の贈与税額は、それぞれ次のようになります。
(1)2023年中の贈与なら前期2(1)が適用され
(3,000万円-2,500万円)×20%=100万円
(2)2024年以降の贈与なら前期2(2)が適用され
(3,000万円-110万円-2,500万円)×20%=78万円
3.相続時精算課税制度のメリットとデメリット
【メリット】
(1)2,500万円までの特別控除があること 相続時において持ち戻し(相続財産への加算)があるものの、その価額は贈与時の価額が適用されます。たとえ相続時に評価額が上がっていたとしても、贈与時の評価額で相続税が計算されます。
(2)制度選択後の2,500万円を超えた贈与財産については一律20%課税で済むこと 暦年課税では年600万円を超える贈与については30%以上の税率が適用されますが、相続時精算課税制度を選択していれば、20%の税率が適用されます。
【デメリット】
(1)制度を適用すると、暦年贈与制度に戻れなくなること 相続時精算課税制度は特定の者からの贈与だけが対象となります。暦年贈与制度に戻れなくなるのは、特定の者からの贈与分だけで、その他の者からの贈与は暦年贈与制度の対象となります。また、2024年以降に選択を開始した相続時精算課税制度であれば、110万円の基礎控除を適用することが出来ます。
(2)制度を適用した財産には、小規模宅地等の特例を使えなくなること 一定の要件を満たした宅地等を相続した場合は、その宅地等の相続税評価額が最大80%減額される特例がありますが、相続時精算課税制度を適用すると、宅地等の相続ではなく贈与となるため、贈与時には小規模宅地等の特例は適用出来ません。 ※小規模宅地等の特例について、2023年5月13日の新着情報をご参照下さい。
(3)相続時に比べて、不動産の取得にコストがかかること 相続時精算課税制度を適用して不動産を贈与する場合は、不動産の取得時にかかる登録免許税や不動産取得税等が、相続時に比べて割高となります。
4.どのような場合に相続時精算課税制度を利用した方がいいか
(1)もともと相続税がかからないと想定される場合
(2)将来多少の相続税がかかると想定されるが、2024年以降110万円を超える贈与をする必要がある場合
(3)収益不動産(賃貸物件)を所有されている場合 賃貸物件を子・孫に贈与することで、相続を待たずに、賃貸収益を子・孫に与えることが出来ます。
(4)値上がりが予想される不動産を所有している場合 前期3.[メリット]に記載の通り、値上がり前の贈与時の評価額で相続税の計算をすることが出来ます。
5.相続時精算課税制度を利用すべきではない人とは
(1)暦年贈与を適用した人 2024年以降は110万円の基礎控除を適用することが出来ますので、2023年中の選択は避けるべきです。
(2)相続時に小規模宅地等の特例の適用を受けたい人 例えば自宅を贈与の対象と考えた場合、相続時精算課税制度を利用して贈与をするよりも、小規模宅地等の特例を選択した方が有利となる場合があります。
相続時精算課税制度の採用には、不動産の専門家や税の専門家ともご相談のうえ、利用されることをお勧めします。
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